遺産分割に際しての心構え
Aさんは、数十年のお付き合いのあった中小企業主Bさんの奥様です。
Bさんが癌でお亡くなりになりました。Bさんご夫妻には子供がありませんでしたので、AさんとBさんのご兄弟が相続人になりました。
実はAさんとBさんのご兄弟中の妹Dさんとは因縁がありました。
一人息子であったBさんがAさんと結婚をした直後の出来事で、今から30年以上昔のことです。Bさんの亡母Cさんが娘のDさんに対し、それまで預けていた預金現金類の嫌韓を求めたのです。
CさんはBさんが結婚したのだから、以後お嫁さんのAさんに預けようと考えたようです。
しかし、Dさんは「もしCさんに返したらAさんに盗られてしまう。」との危機感を持ったものと思われます。ここからCさんとDさんの争いが始まり、AさんBさんまで巻き込んだ大騒動にまで発展してしまったのです。
それ以来、AさんとBさんご夫妻とDさんとは没交渉になって現在に至っています。
このような前史がありましたので、Bさんの遺産分割は容易に纏まらないであろうと思いました。
Aさんから相談を受けて、本件が話し合いでまとめることができるとしたら、徹底的に遺産についての資料をオープンにして、Dさんが疑念を持たなくて済むようにするしかないと思いました。
そこで集めた資料すべてを、Dさんを含めたご兄弟全員にお送りすることにしました。
その際「すべての遺産はAさんが相続し、その他の相続人は法定相続分に見合った代償金を受け取る。」との内容の遺産分割協議書も添付し「皆さんがこの遺産分割協議書の内容に異議がないということであれば、その旨のご返事をお願いします。もし一人でも異議があるとのことであれば家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをせざるを得ません。」と書き添えました。
Dさんからは中々返事が来ません。もはや調停の申し立てをするしかないと観念しかけた頃、Dさんの娘さんから「母は体調を悪くしているため代わって私がご連絡させていただきます。」と遺産分割協議書の内容に異議がない旨の連絡が入りました。
それからトントン拍子に話し合いを纏めることが出来ました。私は、実は30年以上昔の騒動に弁護士として関わっていましたので、Dさんは当然私の顔を覚えておいででした。
しかし、その時のことはお互いほとんど口にすることなしに、気持ちよく話し合いを終えることが出来ました。