自由財産の拡張
Aさんは内装関連の会社を営んでいましたが、癌に罹患し半年余り入院生活を余儀なくされました。従業員が一人いるだけの小さな会社ですから、Aさんが出社しないのでは仕事が続けられなくなってしまいました。
医師からは、余命半年余りと宣告され、死を覚悟せざるを得ません。「このまま会社を放り投げたままにして、死んでしまってよいのか!」Aさんはそんな悩みを抱えて相談にお見えになりました。
明らかに負債が資産をはるかに超えております。こうなると破産する以外に手段はないのですが、「余命半年の宣告を受けているAさんに、わざわざ破産申立をする必要があるのか?」と悩まざるを得ません。
最終的には、Aさんの「きちんとけじめをつけておきたい。」との希望を容れて、会社とAさんの自己破産の申し立てをしました。
自己破産の申し立ての審理中一番悩んだことは、Aさんの家族の生活費と毎月10日間も抗がん剤投与のために入院を繰り返すAさんの治療費を如何に捻出していくかということです。
自己破産の申し立てをするに際し、99万円までは自由財産としてAさんの手許に置くことが認められていますが、この99万円では生活費と治療費を賄いきれません。裁判所は「Aさんの癌保険契約を解約して、解約返戻金を破産財団に組み込むべきではないか。」と考えているようです。私は、「この保険が解約となったら抗がん剤治療を諦めざるを得ない。そのような事態を招くことは人道上問題です。」と必死に訴えて、裁判所からなんとか自由財産の拡張を認めて貰うことができました。
Aさんは、裁判所から免責決定を得て、借金から解放されました。Aさんは医師から言われた余命をはるかに超えて、頑張っておられます。
このように破産申立を行っても、生きていくために必要なお金を手許に置いておくことができるのです。覚えておいて欲しいと思います。