都内にも、かって江戸の近郊農村であった地域にいくつかの古民家が残されています。これから3回に分けて、下町地域の古民家を訪ねます。 第1回目の今回は、江戸川区の一之江名主屋敷を取り上げます。都営新宿線瑞江駅から徒歩15分位、新中川に架かる新椿橋の近くに一之江名主屋敷があります。この屋敷は、北と西に屋敷林を持ち、堀をめぐらした中世土豪風の屋敷構えです。
江戸初期からの姿をそのまま伝えるものとして、都内23区では唯一の遺構です。もっとも現在の主屋は安永年間(1772年~1780年)に建て替えられたものです。関ヶ原の戦いで豊臣方として参戦、関東に下り当地の開発に当たった田島図書が初代と言われ、田島家が代々名主を務めてきました。この屋敷は、永らく田島家の努力で保存されてきましたが、2011年9月、江戸川区の所有となりました。長屋門を入ると、茅葺き屋根で曲がり屋造りの主屋が見えてきます。
田島家の生業は農業でしたが、名主としての公的役割を果たすため、主屋の南側は公的な空間になっていました。 玄関は17世紀初めに武家屋敷の入り口として発達したと言われています。内部を土間でなく、段の下に低い板張りの縁を設けたものを式台と言い、この屋敷の玄関は式台となっています。
他方、北側は生活空間になっており、一階の天井には水害時の救難用の舟が載っています。
入館料100円で、小1時間たっぷり名主屋敷を味わって帰路につきました。
新椿橋から振り返ると、名主屋敷を囲む森がこんもりと繁り、「何かある。何だろう。」と思わせる謎めいた雰囲気を醸し出していました。