今年の夏は殊の外暑い毎日が続いています。暑いだけでなく大雨が各地で災害を引き起こしています。私たち人間がもたらした地球温暖化が原因だとしたら、天変地異と嘆いているだけでは解決になりません。とはいえ取り敢えず私たち一人一人でできることは、省エネに心掛けること位でしょうか。
その一助とすべく今回は東海道四谷怪談を取り上げることとしました。
この物語は元禄時代に起きた事件を下敷きにしたと言われており、大雑把に言えば夫に裏切られ顔の崩れる薬を飲まされ憤死したお岩さんの霊が復讐を遂げるというお話です。
三遊亭圓朝が落語で取り上げ、歌川国芳などが浮世絵に描きました。
戦後だけでも10回にわたって映画化され、2004年の最新作では唐沢寿明が、夫の伊右衛門、小雪がお岩を演じていました。
さて、その三幕です。
伊右衛門が川で釣りをしていると、上流から見覚えのある戸板が流れてきます。引き上げてみるとお岩の死体がくくりつけられていて、恨みの言葉を吐きます。怖くなって戸板をひっくり返すと、伊右衛門に殺された小仏小平の死体がくくりつけられていて、これまた恨みの言葉を吐きます。おどろおどろしい有名なシーンで、浮世絵などでも何度も描かれました。その舞台が隠亡堀なのです。
お岩と小平の死体は、雑司ヶ谷の神田川に架かる面影橋から隅田川に流れ込み、更に小名木川に入って横十間川へ流れ、隠亡堀まで辿りついたことになります。
そこで、今回は戸板が流れ着いた隠亡堀を訪ねることにしました。訪れた時間が夏の真昼間だったからというだけではありません。現在の隠亡堀周辺は西十間川親水公園として住民の憩いの場になっていて、陽光が溢れ、子どもたちの水遊びの歓声が聞こえてきます。どう見ても怪談の舞台には程遠い光景です。
肝心の戸板が流れ着いた場所とされている岩井橋も、辛うじて「岩」の一字に東海道四谷怪談との関わりが見てとれるだけです。想像の翼を目一杯広げてみても、怪談ゆかりの地であることを思い描くことは極めて困難です。
皆様に涼を届けたいとの目論見は、あえなく潰えてしまいました。省エネへの貢献も口先だけになりそうです。お許しください。